夜明け前が一番闇いのだという。 |
カチャッという鍵音を聞いたような気がして、女は目が覚めた。
彼!? 心が期待にざわめくのを感じて、一瞬苦笑する。
どうかしている。
こんな夜中に鍵音だなんて、ホントはからだを強ばらせて
息を殺さなければならない。
女は、音を立て無いようにゆっくりとベッドから身を起こして
ベッドサイドに手を伸ばし、身構えた。
ペーパーナイフ代わりに、護身用のガーバーが置いてあった。 |
闇の向こうをうかがう。
やはり、人は、いるらしい。足音も無く、気配も希薄だが。
ドアの前で立ち止まっているのだろうか?
ないまぜの期待と恐怖が、電流のように全身を走る。
“彼”ならば、このままキッチンに直行して冷蔵庫を開けるだろう。 |
「猫のようだ」と思ったことがある。 焦がれている、男。
気紛れで。身勝手で。
こんな時間に、突然、やって来るかもしれない、正体不明の。
ここは徘徊ルートの立ち寄りポイントなのだろうか。
来訪のインターバルは長く、
一緒に過ごした時間は、やり切れ無いほどに短かった。
しかし、どこか現実離れしたその訪いを、自分がこんなに待っているとは。 |
永遠のような数秒の後、黒ずくめの男が、長身を折り畳むようにして
扉の中に頭を突っ込んでいるのが、冷蔵庫からもれる明かりで
闇に浮かびあがった。
女は安堵に、ひとつ、小さく息をはく。 |