08/SEP/2000 UP



  声優・三木眞一郎へのオマージュ  



フォト<三木ちゃま・ヨージ1(ネガ)>
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「YOHJI、アンタ、また牛乳?」
声もセリフも、ことさらに、クールを装って。
答えは無かったが、パックを咥えたまま、男が長い首を巡らせて
こちらを向くのが見えた。

「牛乳さえ飲んでれば、大丈夫だと思ってんでしょ。」
シャープな顎のライン。このごろ髭は剃っているらしい。
くっきりと浮き出た喉仏が規則的に上下している様に目をとめながら、
女は続ける。
「バカね。牛乳は仔牛のためのものよ。人間にはパーフェクトじゃないわ。」 
男は笑っているようだ。ウェイヴのかかった髪がわさわさと揺れている。

女は、「小鍋にミネストローネが・・・」と言いかけて、やめた。
なにを言っても、どうせ食べなどしないのだ。
酒飲んで、酒飲んで、酒を飲む。そんな生活をしているらしい。
牛乳は、わずかな命綱であり、また免罪符でもあるのだろう。
だから彼女は牛乳を切らせたことがなかった。



空のパックを投げ捨てると、男は、足音を立てずに、ベッドへやってきた。
「じゃあ、人間には何がパーフェクトなの?」
ベッドに腰を下ろして、耳元で男が言う。
わずかに甘えたような口調が、外見に似合わない。
孤高とでもいうべきか、どこかエアポケットのような影があるのに、
声は、むしろさわやかなほどに明るいのだ。
意外に若いのかもしれなかった。

「ねぇ?」
大きな手が胸のうえに置かれ、耳に息がかかると、
女はそのまま瞼を閉じてしまいたくなった。
が、男が、やや下げたサングラスの上から、
からかうような目で覗いていることも知っていた。

「手袋を外しなさい。サングラスもよ。それと、冷蔵庫の扉、閉めて。」

骨ばって長い指。
右手に二つ、大きな指輪をしていて、これは決して外さないのだ。
何故なのか、訳を聞いたことはないが。
サングラスをはずすと、困ったような、はにかんだような表情になり、
女はそんな顔にも弱かった。

「これで、いい? ねぇ?」
息使いが、女の胸を切なくさせる。
「ダメよ。そのズルズルした服、いつまで着てるつもりなの。
“らしく”ないわよ。それと、冷蔵庫の扉・・・」
「KISSの時は、目を閉じて」 

女は素直に目をつむる。唇はゆるく開いて。悔しいけれど、待ってしまう。
それをはぐらかして、男は冷蔵庫の扉を閉めに行ってしまった。 
知っているのかいないのか。やっぱり悔しい。 辺りはまた真の闇だ。

男からの、ついばむような、キス。女の、むさぼるような、KISS。

剥き出しになった胸板を肋骨にそって撫でる。
男の肌は意外に滑らかで、かすかに乾いた汗の匂いがした。
そういえば、チェンスモーカーのくせに、
女のところに来た時に煙草の匂いがしたことは一度も無い。
生活の匂いのしない男だった。
一度、わずかに蘭のような花の香りがしたことがあり、
かえって不思議な気がしたものだ。

乳首に歯をたてる。そういえば、愛し合うときは、いつも真っ暗だった。
が、男の肌にいくつかの引き攣れたような傷跡があるのを、
女は指先と唇で知っていた。
事故だと言っていたが、銃創だろう。一度や二度ではないはずだ。
でも、男が何者なのか。知ってはいけないのだ。
その瞬間、すべてが終る。BAD BOY。いけない子。
つかの間ならば、安らいで。 物分かりのよい大人の女を演じるくらい、
わけは無いから。

女はひとつ息を吸って、男を口に含んだ・・・





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